連載小説 言霊-コトダマ- 第一話“天変地異” 3p

千里Side
 
俺たちは、悪者狩りをしに現場まで走っていた。
裏の情報によると、かなり凶悪でタチが悪い“荒らし”を、忍の者がやっていると言う。
場所はこの近くの、結構広い林に囲まれた民家。
…どうやら金持ちの家だけを狙っているらしい。
そして、そういう悪い輩をいっぺん絞めるのが俺達の役目。
面倒な仕事だよな…。
「清音、現場はどうですか?」
俺が走りながら清音に聞く。
「ん。…そう遠くはない…んだけどさぁ、千里ぃ、何でアンタ口調変わんの?夜に眼鏡外すとさぁ…」
俺は清音の方を見ると、フッと笑った。
「や、自分だって人格変わってるじゃないか。人のコト言えませんよ?」
「普通、逆でしょ。明らかにおかしいでしょ。敬語が眼鏡であるべきだと思うんだけどっ」
…いや、どうでもいいと思う。
てか、俺のしゃべり口調にいちいち突っ込むなよ。
「…万年二位、オメデトウ。」
悪かったね、万年二位で。…って。
「…は!?」
いきなり何!!何を言い出すの!!…って突っ込んでやりてぇ…。
確かに万年二位ではあるけれど!
それを万年一位に言われるのは!!
…すっごい、癪…っ。
俺だって頑張ってるのに!!
何で天然野郎に勝てないんだぁ!!!
「…千里、何一人で百面相してるの…。怪しいョ…?」
・・・ 。
あ。
なんかデジャヴった。
シチュエーションは違えども。
「何でもないですよ…」
「…いやね?その顔黒すぎて怖いからやめようね…?ていうかホントやめよう?ね?」
清音…。
こいつ、完璧引いてるな…。
まあいいか。
「…で、いきなり何なんですか?」
話を引き戻す。
「…えっと、そうそう、次のテスト。…賭けしない??」
「…。いや、ホント貴女って脈絡ありませんねぇ…」
賭け…か。
珍しいな、清音が。
「もしもアンタが負けたら、アタシの言う事何でも聞いてよ。でも、アンタが勝ったら、アタシに何でも命令していいよ。…面白そうでしょ?」
…。
何か負けそうな気がしてきた…。
まぁ、いいだろ。
日頃の恨みとか、はらせそうな気がする。
「…いいでしょう。その話、乗った。…後でナシ、とかは受け付けないからな」
「…!…上等じゃん。…いいよ、決まり!!」
絶対勝ってやる。
…こうなったら、気ぃ抜けねぇな。…でも。
「でも、昼の貴女と夜の貴女、人格違う上に、記憶も曖昧でしょう?」
「どうでもいいでしょ、何とかなるし。夜に会えればいいでしょ?」
「…まぁ、そうなんですけれど」
嬉しそうな清音。
…はっ!?
まさか、勝算アリ!?
だからそんな嬉しそうなのか!!?(←鈍い。)
「…千里、何か、場所、近いっ!!」
しばらく走って、いきなり清音が声を上げる。
「やっぱり、情報の通りだ!!」
清音はそう叫ぶと、一人で走りだした。
「…!?清音、一人じゃ…」
止める俺をよそに、清音は
「だーいじょーぶだって!!これでもアタシ強いからっ!!」
などと言って、聞こうとしない。
「…っの、馬鹿ッ!!…もしもレベルが清音より高ければ…あいつっ、消されるぞっっ…!!」
そう。
俺も清音も、昔からずっと続いている、忍の末裔。
そもそも俺が知る限りでは、忍者にもレベルがある。
もし上級の者であれば、一人一人が、自分自身の“能力”を持っている(ゲームに例えるなら、必殺技みたいなモノ)。
下級であればあるほど、“能力”は劣っていく。
それが、レベル。
まぁ、もっとも俺らがどのレベルなのかは知らないんだけど。
「世話の焼ける…っっ!!」
俺はそうつぶやくと、ダッシュで清音を追いかけた。
俺が行くと、清音はすでに戦っているようだった。
相手もかなりのやり手らしく、苦戦していた。
俺も加わろうと、手を伸ばした時だった。
俺の目の前を、鋭く光る小刀が飛んでいったのだ。
「…っ!?」
―…ザクリ。
清音の足から滴る、真っ赤な…血。
「…痛っ!?」
俺は次の瞬間、頭の中が真っ白になって、夢中で戦っていた。
気が付くとすべて片付いた後で、向こうに足を怪我している清音が見えた。
…行かなくては。
手当を、しなくては。
…しかし、その前に。
その前に…―。
 
 -to be continued…-